診療現場からの報告

第162話: 男性用避妊薬 [カウンセラー/森下]

国内で1年間に行なわれる人工妊娠中絶の件数を御存知ですか?
厚生労働省の資料によると、なんと年間約20万件もの中絶手術が行なわれているようです(2010年時点)。計算上では、毎日約547件の手術が行なわれている事になります。驚かれた方も多いのではないでしょうか。

現在、一般的に用いられる避妊方法はコンドームの使用と経口避妊薬ピルの服用という2つになります。国内では主にコンドームが選択されています。入手に医師の処方箋が必要なピルと違い、コンドームは誰もが簡単に入手できます。この点がコンドームが選択される大きな要因なのだと思いますが、その装着率は42%と非常に低いものとなっています(参考/第159話: 夏の落し物、性病)。
ピルも服用せず、コンドームも装着せずとなれば、予定外妊娠が多くなるのも当然です。

そんな中で先日、男性用避妊薬の足掛かりともいえる研究成果が、「サイエンス (Science)」(電子版)に掲載発表されました。
「(精子)カルシニューリン」という酵素が精子の正常な動きは必要不可欠であり、この酵素の働きを抑制することが不妊につながるという内容のものでした。雄マウスを使った実験では、カルシニューリン阻害剤の投与後2週間で不妊状態が実現し、投与中止後1週間で生殖能力が回復したということで、即効性のある経口避妊薬の足がかりにと期待が高まっています。ただ、現時点ではクリアすべき問題も多く、男性用経口避妊薬の実現にはまだ時間が必要です。

ちなみに男性がコンドームを使用しない理由には、「面倒」「ムードが壊れる」「所持していない」「感度が落ちる」等、様々なものがあります。研究が進み男性用の経口避妊薬が承認されれば、こうした理由での予定外妊娠の数が減少するかもしれません。
ただし、コンドームの使用には様々な性感染症に対する予防策という側面もあります。男性用避妊薬の使用に比例して、性感染症の感染者数が爆発的に増える可能性があります。
結局は当事者のモラルが重要というところでしょうか。