診療現場からの報告

第68話:環境ホルモンがEDを招く? [細川]

ビスフェノールAという化学物質があります。主には、ポリカーボネートやエポキシ樹脂というプラスチックの原料に使われています。一時期、ほにゅう瓶やカップ麺の容器から、このビスフェノールAが溶け出すことが分かって、健康への悪影響について騒がれたので、ご存じの方も多いと思います。生殖ホルモン系に悪さを働くとされる、いわゆる、環境ホルモンの一つです。

実際のところ、環境ホルモンの害については、今では、専門家の意見は見事に真っ二つに分かれています。環境ホルモン問題は終わったと言い切る学者もいますし、警鐘を鳴らし続けている先生もいるようです。近年、男性の精子数が減少を続けているといわれていますが、環境ホルモンがその原因の一つではないかと言われたりもしています。

さて、そのビスフェノールAですが、アメリカの政府機関が資金を拠出して実施された長期に渡る試験で、化学工場で働く男性でビスフェノールAに暴露(浴びる)する可能性のある男性は、性機能が弱くなって、EDのリスクが普通の男性の4倍にもなることが確かめられたと、ヨーロッパ生殖医学会誌で発表されています。

EDだけじゃなしに、性欲も低下するとのこと。ちょっとショッキングな報告です。

この手の研究結果が発表される度に思うのですが、現代の社会は、もはや、プラスチックなしでは成り立ちません。100円ショップに並んでいる商品の9割はプラスチックでしょう。これだけ、石油を化学的に加工した物が氾濫し、それに囲まれて生活しているわけですから、そんな化学物質が、知らず知らずに身体に入っていても、何ら不思議ではないなと思うわけです。そして、場合によっては、それが悪さを働くこともあるでしょう。

ただし、だからと言って、特別な環境下で仕事に従事されていらっしゃる方は別として、普通に生活している者にとっては、何ともしようがありません。なので、環境ホルモンの害が実際にどうなのかは専門家にまかせるとして、ことさらその害を煽っても詮無いことのように思います。ましてや、高いお金をかけて、デトックスする必要もないと思うのです。

それより、昔に比べて、人工の化合物が体内に増えていることは間違いないでしょうから、自浄能力を高めるに越したことはありません。たとえば、きれいな水をたくさん飲んで、運動で身体を動かして汗をかくこと、また、野菜や果物をたくさん食べて食物繊維を摂ることです。結局は、人間に備わった排泄機能が一番頼りになるのではないでしょうか。