診療現場からの報告

第229話:妊活とED[カウンセラー/森下]

今回、EDのご相談で来院された患者さんは、1年程前からに妊活で人工授精に取り組んでおられます。
色々と考えさせられる内容でしたので、患者さんからお聞きしたお話をお伝えします。

まず、排卵日に向けて精子を新鮮なものに作り変える必要があるため、排卵日の数日前に一度射精をします。排卵日当日には病院に提出する精子を採取するとともに、性交渉も行います。更に翌日に再度性交渉を行わねばならないそうです。
いわば短期間に4回の射精を行う必要があるわけです。
しかも、排卵誘発剤(?)なのでしょうか。奥さんは投薬によって、月に数回の月経が来るので、その度に上記のフローを繰り返すそうです。結構な頻度で射精が求められるうえ、タイミング法の要素も含まれる訳ですから、男性にとっては肉体的にも精神的にもハードな内容だと言えます。

タイミング法は以前にもお伝えした通り、授精の確率を上げるには有効な手段です。
ただし、1ヶ月間に行う性交渉のうちの1回を、排卵日に併せるという形であればという話です。
タイミング法を取っているご夫婦の多くは、女性側から排卵日に併せた性交渉を行おうという意思表示があります。男性側は頭では理解しても、そういう気分にならにならない時もあります。そういった時は性的な欲求が少ないわけですから、どうしても何かの拍子に勃起が弱くなることもあります。

性行為が失敗しても、男性は性的欲求・興奮が少なかった事を自覚しています。なので「たまたま」「また次回」と考えます。対して女性は、「失敗するなら頻度を減らして、排卵日に確実に性交渉を行おう」と考えます。なかには性交渉を月1回の排卵日に限定し、その日は「絶対に!」といった想いを強く持たれる方もおられます。

こうしたなかで男性は徐々に子作りにストレス(プレッシャー)を感じるようになります。また、性交渉を義務的な作業のように感じてしまい、夫婦間の性交渉で得られる性的興奮は著しく減少していきます。性的興奮が減り、ストレスが増すわけですからEDを発症してもおかしくはありません。
誰が悪い訳でもないのですが、悲しい話です。

いくら性交渉の頻度を減らしても、性的欲求が低い時は勃起が弱まり失敗することもあります。
妊活は女性だけのものではありません。当事者であるご夫婦のものです。主治医となるドクターには、「授精」だけをクローズアップした妊活ではなく、当事者2人の事を考えた妊活に取り組んでいただきたいものです。

(参考)
第71話 :“タイミング法”でEDになった?
第98話 :妻だけEDって
第103話:不妊治療(タイミング法)でEDに?
第116話:奥様より